あいつ、今日はラッセル車だってよ?
雪道に
長靴で繰り出して行く息子は
つま先で積雪を蹴りながら
車通りの少ない車道を
蛇行運転。
危ないから端に寄って、という
いつもの小言をグッと押し殺し、
雪道に足を引きずって進む君の背中を
追う。
「ラッセル車だよっ」
自分に魔法をかけた君は、
雪国で
レールの重い雪を弾き飛ばして疾駆する
鋼鉄の巨大列車に変身。
ドーッとか、
ゴーッとか、
自分の知る限りのカッコイイ音を
口真似しながら、
今日の君はラッセル車。
長靴が埋まりそうな雪の塊にも
ひるまず両足を突っ込んで、
懸命に足で雪を掻いていく君。
君の通った後ろには
二列に並んだ
車輪の後。
「ねえ、すごいでしょっ?」
振り返った小さなラッセル車。
君は大きな使命を果たしたように
白い息を吐きながら
満足げにワダチを眺める。
鉄道の安全を守るラッセル車。
それをカッコイイと思う君。
役に立つ何かをカッコイイと思う君を
カッコイイと思う
母。