あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

原稿拝見

 ブログ記事を書かせたら、松尾芭蕉先生は、まず間違いなく面白い記事を書くと思います。小説や史記ではなくて、ブログ記事です。とにかく、リズム感が抜群であろうと想像するのです。歯切れがよくて読みやすい、何より、一文が60字程度の簡易な言葉遣いの小気味良い文章だろうと思います。

 勿体付けた言い回しは少ないでしょう。最初に結論から言い切ってしまって、徐々に加速して「起」「承」「転」と駆け抜けて、もう一度、手短に「結」でズバっと切るやり方が似合うはずです。けれども時々は、気持ちが乗らない折もあるでしょうから、艶のある長文を書き連ねて、読者を心配させる小技も使うと思います。

 先生の記事は、淡泊というよりも洗練されていて端的なのでしょうね。カステラというよりも、水餅。あんみつというよりも、葛きり。キャラメルというよりも、金平糖。それも折り畳まれた懐紙に一つ切り。膝を崩して堪能しても差し支えないし、膝を正して味わっても差し支えない、飾り気もなく、くつろげ過ぎない妙な品があるような文体である事でしょう。

 コラムニストとして週刊誌に是非執筆していただきたいのは、紫式部女史ですね。人生相談という重い話題の対話者としてでもなく、評論家としての少し上からの毒舌家でもなくて、一つのトレンドをなまぬるく掘り下げていただきたいです。筆運びが丁寧で、まるで上質の青磁の肌を撫でているような陰影がある筆致が、癖になりそうです。女性ファンは一定数確約されると思いますし、思考型の男性も十分に唸らせそうな緻密さはあると思います。

 流行りすたりを表面で語るのではなくて、心理学の世界に隣接しているようなある種の普遍的なテーマを実に多角的に描き出してくれそうな気がするのです。女性の立場から俯瞰しているようでいて、実は、男性の心の機微も的確に捉えているような魅力的な文章で癖になると思います。切って捨てる斬新な表現がある一方で、その裏面を描き出す綿密な仕掛けも施してある二面性を持った筆運びは、中毒性があると言っても恐らく言い過ぎでは無いような気がします。

 女史の記事は、艶麗に見えて時に冷淡なほどすっきりとしているんでしょうね。取り上げるテーマにもよるのでしょうけれど、人妻でもあり母親でもあった彼女がどんな切り口で仕事や育児を語り上げるのか、これはとても興味を引かれます。

 スイーツライターとしてご意見をいただいたらとても魅力的だろうと感じるのは、宮沢賢治氏ですよね。氏の十八番は農学とファンタジーなのですけれど、氏が紡がれる詩や物語を拝見していると、文字の一つ一つから香りや色彩が目の前に織り成されていくような新鮮さを感じるのですよね。グルメ評論を依頼したとしても、それこそ読者の食欲をそそるような記事が仕上がって来るとは思うのですが、私はどうもそのような「アオリ」の記事よりも、誠実なレポート記事が氏の得意分野ではなかろうかと思うのです。

 非日常を、すぐそばで眠る猫の寝息のように、心地よい現実味を纏わせて書き出す文体は、嗜好品である菓子の世界を表現するに、実はうってつけであると思います。几帳面な輪郭描写もさることながら、菓子の背景にある曖昧な幻想や夢想は菓子そのものの価値の一部でありますので、これを大切に出来る出来ないはライターとしての資質に関わってくるはずです。美味い、不味いだけでない「付加価値」のような物が、不明瞭な「ファンタジー」であるというのは、実のところ、表現者としては描写に手こずる面ですが、恐らく、氏であれば難なく書ききってしまえるのではないかとさえ思わせます。

 氏が甘党であるかどうかは、不勉強であるがゆえ分からないのですが、個人的には氏の「街角スイーツ」記事は、発売と同時に本屋で取り置きしていただきたい程、心が揺すぶられます。甘い物のレポートと共に、氏には含蓄のある季節のお話なども織り交ぜていただきたいと切望します。近所で耕している畑の話、相談に乗った知り合いの農家のこぼれ話などがオマケに聞けましたら、読者は殊の外、得した気分になるのではないかと、思っております。