あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

2階に住む人

長男にとって、かつて、

私の父、つまり、彼の祖父は

「お2階に住んでいる」人だった。

父はすでに亡き人だ。

長男が2歳の時、永眠した。

それからずっと、実家の「お2階」に

私の父は「住んでいる」事になっていた。

里帰りする度、姿の見えない祖父を

探して、長男は事あるごとに2階へ上る

階段を指差し「おじいちゃん、お2階?」

を繰り返していた。

幼い者に、生き死にを理解する事は難儀だ。

それから3年余り月日が流れ、長男も5歳。

保育園からの帰り路、私が口走った何気ない

言葉に長男が不思議そうな顔をする事があった。

「君も随分大きくなったね」と笑った私に、

「おっきくなったよ」と笑顔で返す彼。

「これからもっともっとおっきくおっきく

なるんだよ」と手をギュッと握る私に、

「じゃあ、お母さんももっともっとおっきく

なる?」

「さあ、もう大きくはならないよ。君が

おっきくなったら、反対にお母さんは

ちっちゃくちっちゃくなっちゃうんじゃない?」

「それからどうなっちゃうの?」

「ちっちゃくちっちゃくなって、そうだなあ……」

「……」

「見えなくなっちゃうかもね」

しばらく黙り込んだ彼が、少し遠くを観ながら、

「じゃあ、おじいちゃんも、見えなくなっちゃったん

だね」

と、ポツリ。私はハッとして慌てて質問した。

「おじいちゃんは、お2階に住んでるんでしょ?」

すると長男は恥ずかしそうに、でも困ったみたいな

顔をして、

「お2階よりもね、もっともっと遠いお空に住んで

るんだよ」

赤ちゃんの頃より、明らかに骨ばった真っ直ぐな

人さし指を天へ向けた。迷いのない声だった。

「遠いお空」ってどんな意味を込めて放った言葉

だったんだろう。咄嗟には訊き返せなくてその時は

それで終わってしまったんだけど。

知らぬ間に駆け足で成長してしまう子供の姿を

見せつけられたようで、私は冬の帰り路を彼の

温かい手を引いて、ただ、黙って家へと歩いた。

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