語る背中
男子を育てていて実感するのが、
彼等の聴覚は
遠い場所の音を感知しない
という事。
「遠い」という表現、
これ、物理的にも、心理的にも
当てはまります。
むやみに
男子を
台所や居間から
呼びつけては
ならぬのですよ。
男子には、
男子として、
成さねばならぬ事が
ござりますのでな。
俺がやらねば
誰がやる。
そうなのです。
母は
たまに
無神経にやらかしてしまうのですが、
彼等の集中力を
大した用事もないのに
中断させてしまってはならぬのです。
何用でございますか、母上。
只今、それがし、別件にて
取り込み中でございます。
急ぎの用でありませなんだら、
しばしあちらでお待ち願いたく候。
外野の雑音が
何一つ聞こえていない程に
熱中して取り組み続ける。
そういう時は、
往々にして
男子は背中で語ります。
母は、
彼等の「集中力」の糸を
ぶっつり切ってしまわぬよう
そーっとそーっと忍び足。
私には
及びもつかぬ斬新な発見が
そこにはきっとあるはずなので。
「ただいま」と呼び掛けられて
初めて
「おかえり」と歩み寄るだけの
風景の一部であるのが
よかろうと。