呼び出しの決まり文句も
待ち合わせの場所も
定番のデートスポットも
人気のランチも
ラグジュアリーなソファも
君と私には必要ないね。
二つ並んだ透明なグラスも
にこやかに注文を取ってくれる気の利いた店員も
居心地の良い店内も
いつも君と私には用意されている。
連れ出す約束なんて全くしなかったのにね。
段取りも道順も気分次第で、
まとまりもない。
これをデートと呼ぶのなら、
随分、散らかったデートに違いない。
どこへ行こうとも
君はニコニコ付いて来る。
誰と出会っても
君はニコニコ微笑み返す。
なんて散漫な
なんて自堕落な
なんて愛おしい時間なんだろうか。
紙のおしぼりを
電車に見立てていたと思ったら
触り心地を楽しむように
ギュッと握ったりして。
いつの日か君も
大事な人の前で
こうやってギュッと指先に力を入れて
相手を見つめる事があるのかも知れないな。
呼び出しの決まり文句を
待ち合わせの場所を
定番のデートスポットを
人気のランチを
ラグジュアリーなソファを
色々に心配りしながら。
宝物を捧げるように
約束を交わして
君は誰かを待つんだね、きっと。
有難う、今日はお母さん、
特等席で君とデートだ。
いいかい、カッコイイ男になれよ。
予行演習はいっぱいしとけ。
失敗するなら、今だからな。
約束のないデート。
さよならする時の為に。