あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

迷い続ける40歳(不惑、って言う程たやすくないです)

40歳になってから

時々なんだけれど

とても

死ぬのが怖いと

思うようになった。

 

この怖いという感覚も

避け難い物から

絶体絶命の恐怖を植え付けられる

という厳然としたものではなくて、

ちょっと表現は不適切かも知れないけれど

例えば、

自分が主役の舞台が後30分後に開演するのに

何故か自分だけが台詞を全く覚えてなくて

きらびやかな衣装を着た状態で

冷や汗をかきながら幕が開くのを待っている

心境。

あるいは、

将来がかかっている重要なテストのテスト会場で

試験官が配り終えたテスト用紙を裏返した途端

自分が勉強していたテスト範囲どころか、

科目そのものが間違っていて問題文の意味が

壊滅的に解らない

心境。

つまり、

かいつまんで言うところの、

姿が分からない物体を

目隠ししたまま触らされて、

「大丈夫です、貴女の知っている物ですから」

と耳元で教えられても、

「大丈夫じゃねえよ、そんなんで安心できるかいっ!」

と理不尽な現実受け入れを強要される不安が

モヤモヤと心全体に霧みたいに広がっていく

そのような感覚である。

 

40歳は一つの節目であるのだろうか。

急に、である。

20歳代の頃などは、

死、など、それこそ

胡散臭くて、現実味がなく、

どこか抽象的でさえあったり自虐的だったり

時に耽美的であることもあった。

それが、今になって、

思い出したように先方から

暑苦しいほどに距離を詰めて来る事が

増えたのである。

 

親の死を

肌で知る事があったからだろうか。

子が出来て、

命の始まりを知り、

その対極にあるものまでに意識が

及ぶようになったからだろうか。

概念でしかなかった物が

実体を持って

「こんにちは、良いお天気ですね」

などと扉を叩くようになってしまった。

確かに人智の及ばない出来事は

世にたくさんある。

超自然的現象を神や仏になぞらえる事も

嫌いでは決してない。

自分を取り囲むエネルギーの流れを

恵みと感じる感覚は私にも存在する。

詩的にも現実的にも

揺らめきながら毎日を綴っていくのは

楽しい。

 

そんな私が、

時たま、

ぽとん、と

自分の見知らぬ場所に

産み落とされてしまうのである。

 

寂しい、だけでは言い表せない、

気味が悪い、だけでは言い表せない、

困惑するというだけではない、

絶望するというには単純すぎる。

 

適切な表現を持たない私が、

ふと、今日、

漠然としたこんな気持ちを

車を運転している主人に向かって

独り語りしてみた。

ハンドルを握る主人は

相変わらず聴いているのか

いないのか、

いつもの寡黙を通している。

私のおしゃべりは、

いつだって、

「大きな独り言」なのだ。

慣れたものだから、

私も独り言に熱中する。

 

「死ぬことがね、何となく、怖いねん」

 

本当に、どれをどこを何をどのように分析して

言葉にすれば良かったのか解らなかったので

結局は

それだけを言うに止まったのだけど。

言いたい事がたくさんあるのに、

気持ちに言葉が追い付かないと言うのか

気持ちが言葉を追い越してしまうと言うのか、

要領を得ない箇条書きを読み上げたように

私の訴えは尻すぼみになり、

やがて、走る車の車内BGMに紛れて消えた。

 

窮屈ではないけれど

無意味な沈黙。

しばらく続いたモノトーンの空間に

次の話題を引っ張り出そうとした時、

黙然と前方に集中していた主人が

雫を落とすように

ぽつりと呟いた。

 

「幸せって事だ」

 

雫はパッと光って薄闇を照らし、

私がその正体を見極めきれない内に

霧散してしまった。

 

饒舌だった私が急に黙り込んだので

聞き取れなかったかと主人は考えたのかもしれない、

またさっきと同じ口調で同じ事を繰り返した。

 

「幸せだから、そんなことが怖くなるんだ」

 

死ぬのが怖いと思っている内は

ちゃんと生きてるって事なんだ。

そう、

そういう事なのだろうか。

問い返しても

明後日の方を向いて応えない彼に

私も再び口をつぐみ、

さっき自分が耳にした

彼の言葉をしばし撫で回してみた。

怖いのに、幸せ。

物凄い逆説じゃあなかろうか。

怖い事、幸せな事。

 

目的地につくまでの長い間を

この謎かけに囚われていたかったけれど、

すぐそばで騒ぎ出す子供達に

思考は容易く積み木崩しを喰らってしまった。

かしましい現実が

私を夢想から連れ戻す。

この生活を完成させる為の

代えの利かない部品に

私を立ち戻らせてくれる。

 

幸せは、

ちょっと

うるさい。

 

お行儀の良い「死」を

後回しにしてくれる。

 

怖い事は

怖いままでいいのかも知れない。

それが、どこから流れ出たものかを

分かっていたなら、

暇つぶしにでも考えてみたらいいんだ。

 

私は

死ぬのが

とても怖い。

愚かしく慌てふためく

つまらない一人である。

 

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