銀河鉄道は、夜。
私の故郷は
大変な田舎であったから
夜になると、
ただ一線しか通らない鉄道が
黒い山肌を巡り、
光の筋を引きながら流れ星のように
街の方へ帰って行く。
電車の窓から射す
粒ぞろいの黄色い照明が
一列になって闇色の空中を
飛んでいる。
銀河鉄道だ、と
夢見る事もあったのだが、
やはり、
この響きは、
少し寂しい余韻を持っている。
ジョバンニが観た束の間の輝きは
親友カムパネルラとの別れの旅路を
彩っていたのだと思うと、
感傷的な、ほろ酔いのような
そんな気分になってしまう。
宮沢賢治が描いた兜率の天が
この空の上に
実在するのかは、不遜な私には解らない。
けれども、
遠くなっていく光の一筋を見送る時、
何故だか、
私は、
胸倉に熱い塊を押し付けられたようになって
頼りあるものへしがみつきたい気持ちに
なるのである。
灯りを落とした部屋の中を
新しい列車のおもちゃが
走る。
その列車に灯る電灯の光の中には
勿論、いわくありげな物語など
詰まってはいないだろう。
カラリと朗らかな楽しみだけが
他愛ないおもちゃの原動力であるはずだ。
それでも
銀河のほとりを
二人の少年を乗せて走った汽車が
プラスチックで出来たレールの上に、
懐かしい光の面影を引いて走る時、
私は、
故郷に残してきた
甘苦いものに
ひどく胸を揺さぶられる。
銀河鉄道は、
走る。
夜を。
思い出を連れて。