聖家族の箱庭に
流線型の身体をくねらせて
四角い箱の中を
魚が泳ぐ。
逃げる事を忘れた
無垢な魚達が
幼い手の平に群れて争う。
透明な物に遮られた
濡れた世界に
腹を剥き出しにした水辺の精が
ふわりふわりと浮いている。
重力を知らぬ向こう側には
照らしどころが分からぬ呑気な光。
灰色の天が揺らぐ度、
あちこちへと濃淡を据えかねているよう。
ここは箱庭。
どの青も
どの緑も、
親しみ深く、よそよそしい。
パッと身を翻して、
笑いかけ、
思い出したように、
無表情。
ここは箱庭。
知っているのに、
知らない世界。
図鑑で観たのと同じ形、
図鑑で観たのと違う命。
箱庭に迷い込んだある者は、
小川を知らない。
田んぼの側の用水路を知らない。
硬い鎧と鋭いハサミを持った珍しくも無い
生き物の名を知らない。
生臭いこの臭いこそが
野生の息吹である事を
知らない。
でも、
箱庭の人よ。
君達の眼は
生き物を知っている。
いとわず、
恐れず、
あるものを
あるがままに。
君達の今いる場所で
出会ったものは
父や母が
幼い頃、
草深い荒地で観た物の
子孫かも知れない。
父や母が
飛び越えられなかった
急流で観た物の
末裔かも知れない。
全く無駄の無い
自然の形が
ちゃんとここにも
生き移しに移されている。
最初は十分に驚きなさい。
それから少しずつワクワクしなさい。
やがて
しっかり見つめ直して
そうして、
優しく見守りなさい。
君達の箱庭が
この宇宙程大きくなるように。
箱庭を囲む境界線が、
膨らんで溶けてしまう日が来たら
本当に本当に
素晴らしい。
命を区切る寂しさが
君達のあずかり知らぬものに
なればいい。