春のアンテナ
朝ごはんを食べる君の頭に
アンテナが立っていたので
それを眺める私の朝は
クスッと笑える
楽しいものになった。
黙々とパンを口に運ぶ君が
すごく真面目な表情をしていたから
余計に時間がスピードを緩めて
世界はスローモーションになった。
台所に立つ私と
食卓に座る君との
2メートル程の距離は
単なる2メートル程の距離ではなくて
色とりどりの旗や
ゴチャゴチャと賑やかなカレンダーに飾られた
騒がしい2メートル程なんだと思う。
君の頭に立った寝癖のアンテナは
何の最新情報も拾いはしないけれど、
私と君が歩いて来た毎日の
記念碑のようなものなんだと思うのだ。
君を形作る輪郭や眼差しや
指使いや仕草や
癇癪や呑気さや
意地っ張りや泣き虫が、
何度も何度も私を動かしてきた歴史。
私は台所に佇み、
クスッと笑い、
君を見守り、
君はパンを食べる。
そう、頭に、
可愛いアンテナを立てながら、ね。
君が紡いで来た歴史絵巻が、
私の朝に
春風を運んで来るの。
ゆっくりゆっくり
大きくなあれ。
ゆっくりゆっくり
春よ、来い。