ふらここや
「ブランコ」ってね
春の季語なんですって。
確かに
こぎ始めると
ギューンって一気に
空へおっぽり出されるような
愉快な遊具ですよね。
君を抱っこ紐で身体に括りつけて
春へ向かって
ギューンって一気に
飛び出す私。
ヘラヘラと壊れたように笑う君は
私の胸をパンパン叩いて
もっともっととけしかけてきました。
君と私が「一つ」だった頃も
私達は
空に向かってブランコをこぎ出したんですよ。
ああ、そうですねえ。
君のお父さんと
大喧嘩した君のお母さんが
泣きながら家を飛び出した
ある春の夜でしたよねえ。
帰ろうか
帰るまいか。
涙をぽろぽろ流しながら
夜の中に揺れている
錆びたブランコに座りましたよね。
薄手のマタニティーワンピースをひらめかせて
プラプラと揺れるブランコに座って
幽霊みたいに夜の底で
漂っていましたよね。
思い出したのは
悲しい事があったからではないんです。
今、こうして君と
ギューンって一気に
空へおっぽり出されるような
愉快な遊具に座って
あの日の思い出に
クスクス笑える今日を
迎える事が出来たから
なんですよ。
おかしいですか。
嬉しいから
悲しかった頃の事を思い出すなんて。
そうですね、
おかしいですね、ふふふっ。
やっぱり、
ブランコは
春の乗り物
なんですね。