アギト
「逃げろ」とけしかける自分がいる。
「逃げるな」と叱責する自分がいる。
せめぎ合いの真中で
最悪のケースと
万が一の幸運とを
私は飽きもせず見比べている。
その沼に飛び込めば
得体の知れない捕食者に
手首を食い千切られるかも知れない。
その沼を泳ぎ切れば
見渡す限りの緑の草原が
目に痛いばかりの美しさで迎えてくれる。
「嗅ぎ分けろ」と胸倉を掴む野生。
「身を任せろ」と背中にのしかかる惰性。
小競り合いの真中で
生き延びる王道と
死に急ぐ獣道とを
私はのうのうと品定めしている。
思い出せ。
そんな暇はない。
目覚めろ。
そんな猶予はない。
貪欲でいろ、生きる事に。
それ以外を
算段するな。
涅槃のほとりで
寝ぼけているのは、
そろそろ
やめにしないか。
挑もうぜ。
獰猛に。
生易しく生きるのは
それからでいい。