いないいないばあ。

君の頬を打った手を

母はじっと見つめる。

わっと君が泣き出すまでの

長い長い長い時間を

母は放心しながら待つ。

こめかみと胸とが

煮え滾っていると言うのに

半開きの唇と

君を打った手の先ばかりが

不自然なほど冷たい。

君は縮こまるように

母に打たれた頬を庇い

自分を見下ろす暗い眼差しを

恐れるように見上げて固まる。

知らない者を見上げる眼。

知らない者を見上げる眼。

知らない者を見上げる眼。

知らない者を見上げる眼。

一瞬間の内に母は野獣になり

人間に戻れなくなったまま

昨日を過ごしたリビングで沈黙する。

牙を剥いた顎の下には

自分を見上げる君の視線。

知らない者を見上げる眼。

知らない者を見上げる眼。

知らない者を見上げる眼。

しらないものをみあげるめ。

しらなイものをみアげルめ。

しラナイものヲみアゲルめ。

シラナイモノヲミアゲルメ。

シラナイ……モノ……ミアゲル……。

シラナイ……ミアゲ……ル。

牙を剥いた知らないモノが

リビングの絨毯の上で

自分の影を

凝視している。