あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

ほどける

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モノレールの車窓から眺める眼下には

白や赤、淡いピンクのハナミズキの群。

明るい色の雲を踏み進んでいくような

春の強い日盛りの午後。

 

きつく結ばれていた私が、

身体中あちこち穴だらけになって

パラパラ鱗が剥がれて

やがて、ゴトリ、と腕が外れて

ポッキリ、膝が抜け落ちて

時々左右に揺れる車内の床に

立っていられなくなって

自分の重さに耐えかねて

ザラザラ、ザラザラ、細かい部品に戻って、

目的の駅に放り出される頃には

ごちゃごちゃとしたガラクタに成り果てたまま

そこへ折り重なるように

わだかまって笑っているんだ。

 

視界はいやに鮮明。

風の色あいは頬やこめかみや耳たぶで

何を違える事もなく解っている。

立ち塞がる景色を

アルミニュームの鎖骨で切り拓きながら

細い糸で繋ぎ合わせただけの私の身体は

ハラハラと破片になっていく景色の中を

不格好なクロールを繰り返しては

丁寧に渡っていくんだ。

時々、

温かい埃っぽい塊が指先に当たっていくのだけれど

あれはきっと餌を獲りに来た鳩に違いない。

剥き出しの額には

上がり下がりを飽きもしないヒバリの呼び声が

間断なく貫いていく。

 

私はもう半透明な

レースカーテンのように希薄になりながら

一歩、また一歩。

自分の影が前にあるか後ろにあるかも

分からないような有様になって

肥大した心臓も

眠そうな肺臓も

抱えきれずに通り道にボトボトこぼしながら

一歩、また一歩。

 

ああ、私のひな型を

作って置けば良かったなあ、と、

とりとめもないことを考えながら、

あちらこちらがもうすでに私でなくなってしまったモノのままで

炙り出された直線の上を

目の端に映る緑色を頼りにしながら

どうやら進もうと思っているらしい

自分であるだろうモノの意思に従って

ようよう足を踏み出し続けて前進している。

 

横断歩道の白黒の隅々へ

色濃い物を投げかけている車や自転車。

渡ろうとしている人達の少しのイライラや

どこへでも勝手に向かっていく風圧のような歩行。

頭上を通り抜けるのか

肩先をすり抜けていくのか

大勢の作る流れは、間一髪の予想を裏切りながら

忠実に日常を織り成していくようだ。

フラフラと私が迷い出たくらいでは

一揺るぎもしない

なんと堅牢な日常の午後だろうか。

 

穴だらけの私の身体は

歩く度にゴロゴロと部品が抜け落ち

通り過ぎて来た道には

光ったり弾けたり、砕けたり流れ出たりする

「私の一部だったもの」が転がっている。

 

私は

私でなくなっていく私を

悲しさによく似た喜びで見送って

肩からずれ下がった鞄を

気の入らない掛け声をもって

もう一度、

形を失った肩へとかつぎ直す。

ああ、そうだ、たしか、そうだったな、

などと、もっともらしい事を何度も口ずさみ

どうでもよいような記憶を撫で回しながら

そこへ向かうのが当然といったような

足取りで一歩、一歩、一歩。

 

今一度、

結び始めようと

思い詰めるまで、

流れ出たままの私を引きずって

春の日盛りを

陽炎の直線を

あおられたカーテンのように。