あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

台所で叶える夢

 どこにでも売っていそうで、案外、探すのに苦労する飲み物、メロンソーダ

 ちょっと前までは大通りに面した喫茶店のメニューに必ず載っていました。言い方は良くないですが、あのセロファン用紙みたいな人工的な緑色は、子供の頃の私の特別感をひどく刺激したものです。勿論、本物のメロンが主原料ではありません。甘い色水にやや緩い炭酸が入っていて、大概は細長いシャンパングラスか、背の高いタンブラーに注がれていました。上にアイスクリームがトッピングされていればクリームソーダという別のメニューに変わりましたし、それこそ子供心をくすぐるような最上級の高貴な雰囲気をそれは醸していました。

 注意深く店を訪ねて歩けば、思いの外、あちこちで見つかるのかも知れません。しかし、私が嫁に来た地域ではなかなかお目にかかりません。時代なのでしょうか、そもそも喫茶店、それも白熱灯の薄明りが暗い店内を黄色く浮かび上がらせているような純喫茶自体に出会わなくなって久しいです。

 薫り高いコーヒーや上品な紅茶を大人が注文する傍らで、オレンジジュースやミックスジュースを親に勧められた私達子供が、そんなものよりよっぽど指差して頼みたかった飲み物、メロンソーダ。昨今では老いも若きも、男も女も、生クリームたっぷりのパフェや大人びたジンジャーエールなんかを注文する時代にはなりましたが、昭和の時代の喫茶店で真っ先に浮かぶ子供の飲み物と言えば、やっぱり私はメロンソーダなんですよね。そう、あれは、訳知り顔の大人が喜々として目の前に置くモノではなかったんです。

 そうして今更、私がメロンソーダを思い出す理由というのが、我が家の長男です。どこで聴き知って来たのか(まさか、保育園で実際に味わった事があるとは思えないので)、ここ最近、彼がご執心なのが件のメロンソーダ。5歳の彼にとって、キングオブスペシャルドリンクは昔懐かしいメロンソーダに成りました。家でいても、出掛けても、喉が渇いたとなると「メロンソーダが飲みたい」と始まるのです。ところが、近頃とんと私はそれにお目にかかって居ません。自動販売機にも他の炭酸は充実していますが、メロンソーダの姿が有りません。ホテルのラウンジでも充実したドリンクメニューにメロンソーダだけが欠けています。昨今の健康思考から考えれば、確かにビジュアル的にも健康に良さそうな飲み物には見えません。それだけの理由でないにしても、私の子供の頃にはあっちこっちに登場していた「子供用飲み物の王様」が今は影も形も見つからないのです。

 需要と供給のバランスでしょうか、「昔懐かしい」なんて冠が付くくらいのものですから、確かに随分、古めかしい飲み物である事は確かです。

 ただ長男の悲しそうな顔は、胸が痛みます。売っていないなら、作るに如かず、母はメロンソーダを「買う」から「作る」方向へと作戦を変更いたしました。原材料は単純です。かき氷シロップ(緑)と、〇〇〇サイダー。以上。これを混ぜるだけです。メロンソーダを探しあぐねて、グーグル先生に頼ってみた所、そのお知恵を拝借しました。分析すれば「色粉入りのブドウ糖シロップに香料と酸味料がプラスされた液体へ、炭酸を注ぎ入れる」。いいえ、良いのです、この際、健康志向、クソくらえです。ささやかな夢の実現。舞台裏は、そのようなものです。

 ソフトドリンクの価格が喫茶店では一杯、仮に500円~700円だとして、我が家の手作りメロンソーダ一杯が原価18円程度だとしたら、なんだか見えて来る世界が違う気がしませんか。スーパーマーケット価格1リットル127円の徳用サイダーがあるとしてです、キャップ一杯ずつ使用するかき氷シロップの消費量を加味すると、700円あれば軽く小学校一クラスの生徒分くらいは余裕でメロンソーダ振る舞い放題です。

 子供時代、本当に夢の世界の飲み物だったメロンソーダ

 大人になった今だからこそ分かる材料の面白さや、こそこそした舞台裏。知ってしまえば、なーんだ、なんて簡単に魔法は解けてしまうものなんです。けれどそれでもやっぱり、あのシュワシュワした限りなく澄んだ緑の液体を眺めていると忘れていたはずのワクワクがまたぞろ湧き出して来るように思えるので嬉しいです。

 今日は、長男のリクエストで手作りメロンソーダに生の苺をカットして沈めてみました。かき氷シロップを入れた後、そーっと炭酸を注いだので、出来上がったソーダは鮮やかに二層になりました。沈めた苺は、水槽の中で楽し気に泳ぐ金魚みたい。ストローをさして、氷を幾つか浮かべて、休日の気分は嫌が応にも盛り上がります。眼をキラキラさせた長男が瑞々しい緑を横から見つめたり上から見下ろしたり。彼の横顔を眺めているこちらまで笑顔のおすそ分け。

 夢の飲み物を作る。そんなおとぎ話の一幕こそが、休日の台所をにぎわすのにふさわしい。