あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

私的言霊論

 耳に心地よいと思う声を聴くと、ストレスの蓄積された体が正常にリセットされるとか。画面を見る作業に限らず、私達は視覚的情報処理を実生活の中、かなりのボリュームで行っています。目を閉じるだけで(例えば、仮眠など)疲労回復が行えるのは、翻って言うならば、それだけの労力を「見る」という行動で消費していると言えるのかも知れません。

 目を閉じれば、視覚に割かれていた労力が残りの感覚に割り振られて加算されます。鼻が鋭敏になり、周囲の匂いを強く感じる事もあります。肌に触れる空気の流れを敏感に意識出来る時もあります。ワインのテイスティングで、つい目を伏せて味わうのは、まさしくこういった原理に基づいているとも言い得ます。そして、中でも影響を受けやすいのは、私は聴覚のような気がしています。

 音。これはダイレクトに精神に響いてくるものです。記憶に深く結びついている物が嗅覚なのだとすれば、音声は現在進行形の自分に揺らぎを与える要素であると思うのです。そもそも音は「揺れ」です。震え、波、動き。しかも、それは伝える物と言うよりも、伝わる物であると私には感じられます。特に人声の質感は、体格、性格、品格に委ねられます。仕事で受け取った電話口での連絡があったとします。相手の姿は勿論、見えません。であるのに、私達は無意識の内に、相手の性別から表情から相手がいる場所(背景)からを想像したりしないでしょうか。耳を澄ませて、相手が伝える用件以外の情報を汲み取ろうとしていないでしょうか。目の前にいないからこそ、口調や抑揚や言葉尻や相槌の間などで即座に映像を組み立てようとしていますよね。優しそうな人だと想像するのなら、その相手の声は「優しい」を表現しているのでしょう。切羽詰まっている状況が思い描けるのなら、きっと相手の息遣いや気配は切羽詰まっている様子のはずです。

 たまたま隣り合った人を素敵だと感じる瞬間、容姿のみでなく声を含めた雰囲気である場合も多いかと思います。囁かれる甘い言葉が、胸に染みいってくるような深いトーンであったり、もどかしいほどハスキーなものであったり、励まされるようにくっきりとした透過性があったならそれだけで聞き手の集中力は倍に増していくことでしょう。

 私は発泡スチロールがこすれる音が、大変苦手です。奥歯がキシキシ縮むような気持ちになってしまいます。心地よい音と対局に位置するものなのでしょうけれども、不快に感じる音声というのはそれだけで並外れたストレスになるという事です。

 不快とまではいかなくとも、不似合いであるという印象も人におかしみを与える時があります。「あの見た目で、あの声か!」と外見と声色との違和感に出会う時が日常生活にはありますよね。私の主人を例にすると、絵面は「ジャイアン」ですが、声はそれから想像するとやや高いという「ズレ」があります。体格からの影響というよりも、単純に声帯がそうであるようです(昨夜、アニメの『深夜!天才バカボン』を観たのですが、ストーリーの展開上、バカボンのパパの台詞をイケボ声優が吹き替えただけで、凄まじい身震い)。声優という職業がありますが、そういう私達の潜在意識に寄り添ったプロ集団であるというのが納得されるところですね。洋画の吹き替えが好例でありましょうか。絵と音声が「釣り合う」のがいかに肝要であることでしょう。キアヌ・リーブスが『ちびまる子ちゃん』のハナワ君だと辛いです。トム・クルーズが『北斗の拳』のラオウだと気が散ります。メリル・ストリープが『ドラゴンボール』の悟空だとカメハメ波が炸裂しそうです(でも元気玉が使えるのは羨ましいなあ)。ですから「それっぽい声」というのは実は思っている以上に重要ですよね。コミュニケーションの中で人と結びつく私達であるからこそ、相手を推し量る材料になり得る「声」というツール。

 ともすると、人となりまで表現してしまえる強みが「声」にはあるのでしょう。良い声の定義は人それぞれですが、琴線に触れる声に出会った時、手足がじんわり温かくなるように感じるのは本能的な部分までもが満たされるからなのだと思います。

 池田昌子さんhttps://www.youtube.com/watch?v=H37-jylFe_I

 戸田恵子さん(『Xファイル』スカリー役・『それいけアンパンマンアンパンマン役等)

 大塚明夫さんhttps://www.youtube.com/watch?v=JQM29XcoH7Y

 森川智之さんhttps://www.youtube.com/watch?v=PdKVP2z8UNA

 鳥海浩輔さんhttps://www.youtube.com/watch?v=GzaLNbVBFz4

 津田健次郎さんhttps://www.youtube.com/watch?v=tc10P5CdUf8

 中村悠一さんhttps://www.youtube.com/watch?v=i9LdsGuvr2Q

 井上和彦さんhttps://www.youtube.com/watch?v=HyAm1scmAIw

列挙してみれば、私はゆったりとした艶のある声が心に響くようだと分かりました。

 CMで流れるナレーション、ニュースを読むアナウンサー、注意してみるとそれらに影響されている事は割と多くあるものです。高級外車のCMであれば、深みのある渋いナレーションがふさわしいでしょうし、動物番組であれば少し明るいはっきりしたトーンが可愛らしさが際立って素敵かも知れません。災害時に、避難を急ぐ人を誘導する為、あえて落ち着いた声色を使う必要もあるでしょう。

 私の声はどういう具合で相手に届いているんだろうと、たまに意識する事があるのですよね。子供達に読み聞かせをする時の声。主人にお願いをする時の声。上司に報告をする時の声。普段身近に接する人の声を、もう、その人の一部として認識しているからこそ、にじみでてくる個性が、浮かび上がる「らしさ」が改めて、面白く感じられるのです。「言霊」が、確かにそこに、宿るんですよね。