あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

むかしむかしあるところに。

 『ゴールデンカムイ』(野田サトル原作)のアニメを観る度に、私は何度も自分の弟を思い出します。2歳年下の彼は今年で38歳。今は北海道の苫小牧に在住しており、そこに移住したきっかけは競馬職員を育成する専門学校への入学でした。なかなか北海道内も不景気の煽りを受けて厳しい状況であったのだと思います。紆余曲折あって、現在では全く別の職種で管理職にまで昇格した彼ですが、いよいよ基盤は北海道に移り、恐らく実家に骨を埋める事はこの先、ないのだろうなあと私も、そして弟自身も考えているこの頃です。

 漫画原作の『ゴールデンカムイ』をアニメのみ知っている私は、そこに描かれる北海道の景色と人々の純朴さに心を掴まれます。冒険活劇でありサスペンスであり暴力表現も含まれる原作でありますから、くみ取れるものはあまり穏やかな物ではありませんが、端々に描かれる人同士の交流が何だか懐かしい物のように私には思えます。

 以前、弟に「どうして北海道に住み続けるのか」と尋ねた事があります。「人が温かいからかな」と返した彼に、妙な納得を覚えたものです。私自身が北海道に住み着いた訳ではありませんし、その土地に訪れる時は必ず旅行者でしかあり得ないので偉そうな事は何一つ言えないのですけれど、彼が言い表す「人の温かみ」は何となく分かる気がするのです。

 弟は、そもそも、口数が少なく、心の底でもの凄く多くの事を熟考するタイプの人間です。だからこそ、それまで彼をとりまく目まぐるしい世界の中でとても苦労した事もあったろうと推察します。その彼が、心穏やかに過ごせるのがたまたま北海道という広大で逞しく彩り豊かな懐の深い土地であったのでしょう。

 馬の放牧地や、動物園のふれあい広場、野ざらしの飼育広場に彼が行くと、不思議な事なのですが、そこにいる馬、ラクダ、シマウマ等が、柵の外をブラブラ歩いている弟に向かってすり寄ってくるのですよね。敵ではないと分かるのか、あるいはもっと深いところで通じる物があるのか、彼と動物達との交流は、まるで童話世界の出来事のようなのでした。オーイオーイと、低く響く弟の声に、首を振りながらゆっくり近づいてくる動物達。鼻面を伸ばし弟の手の匂いを入念に嗅ぐ仕草の可愛らしい事。人間の何倍もの体をすり寄せ、じっとしている姿。弟と「彼等」。虹を映したような優しい目で、あるがままの景色を眺める姿が、互いによく似ていると姉には思えるのでした。

 

 

(1000文字雑記)