あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

とこしえの松の枝

 調理中、ラジオ代わりに落語を聴いています。主に米朝一門の演目を流しているのですが、故桂枝雀さんの語り口が好きでよく選びます。『代書屋』『子ほめ』『幽霊の辻』と次々流しては、暗い台所の隅で、フフフっと薄気味悪い笑いを忍ばせている私です。包丁を握り、前かがみにまな板へ向かっている中年女が夕餉の支度をしつつニヤけているのは、見目良い光景ではありません。

 ともあれ、枝雀さんの語る演目の中で毎回欠かさず聴いているのが『青菜』です。ひょうきんな植木屋と、連れ合いの女将さん、それから友達の大工に、豪邸に住むご隠居さんと奥ゆかしい内義、登場人物が織り成す愉快な物語が、軽妙な名人の口調で眼前に繰り広げられる喜劇のように語り尽くされるのです。

 舞台の背景は丁度夏の暑い頃で、植木屋の稼ぎ時です。私の父も植木職人でした。繁忙期には、顔は日に焼けて真っ黒でした。

 また、冬もかき入れ時です。お正月を迎える為の庭木の手入れは誰しも心を砕くものなのでしょう。松脂の清々しい香りを背負って帰って来る父が、私には何故か誇らしかったです。玄関先で、地下足袋を脱ぐ後ろ姿が妙に色っぽかったのを憶えています。師走の頃の思い出の一つです。