礼を尽くす。

　根底に流れている物は様々ですが、人を繋ぐ材料は「思いやり」でしか有り得ないのではないでしょうか。近しい間柄、例えば、それが親子でも夫婦でも師弟でもです。そして、一方向からだけが、手厚いものでも関係は崩れます。双方が、丁度良い思いやりを発揮しなければいけません。

　「親なんだから解ってくれる」「妻だから理解してくれる」「生徒なのだから想定内である」それらの考えは余りにも相手に寄りかかり過ぎた我が儘であるのかも知れません。

　武道で大切にされる「礼」は、ただ、形が美しいから尊ばれるのではありません。「礼」を尽くすことは、いやらしい見方をすれば、我が身を守る事にも成り得ます。苦しい立場にあっても「礼」を貫く人には、通常の神経が備わっている人なら暴力を振るう事を躊躇してしまいます。礼儀を尽くす人に対し、相手は無理が通せなくなってしまうからです。

　ガンジーが貫徹した非暴力とはまた少し視点が違うかも知れませんが、日本風の「礼」とは、つまり対峙する相手への「敬い」の所作であると言えるでしょう。

　形式的に示すのでなく、まずは相手を「そのままの形で受け取る」姿勢、この大きな懐の温かさに逆らえる人は、きっといません。