早苗の頃
田を耕す人が減り、私の故郷の風景もだいぶ変わった。鬱蒼としていた神社の参道も、大幅に刈り込みの手が入り、並木は随分と殺風景になってしまった。ここ一年、帰省はできていないが、今頃の田植え時期は、どうなっているだろうか。
父が譲り受けていた畑は、大型ショッピングモールの駐車場になってしまった。私が子供の頃には、肥料用に咲かせてあったレンゲの花を、よく摘んで遊んだものだ。
紀の川の堰も、用水のために開けられている頃だろう。冬季には滞ってしまっていた水の流れが、あちこちで勢いを取り戻しているに違いない。蛍は飛び始めただろうか、蛙はうるさいほど鳴いているだろうか。それでも、今なお、残っている水田には緑鮮やかな稲の苗がなびいているだろうか。
家を守る母がいなくなれば、私の故郷は文字通り消える。思い出が麗しいものであるほど、変化を受け入れがたくなる。私の知らぬ場所がいずれ誰かの懐かしき場所になる。さりながら。