荷ほどき
長男が生まれた記念すべき日が、ちょうど紅葉の季節と重なるのが嬉しい。東京は毎年この頃は特に穏やかな小春日和が続いて、少し風は強いが空は遠くの方まで澄みきっている。
今年、長男と次男は、夫の車に乗って箱根方面へと一泊の旅行に出かけた。勿論、子どもらにとって、両親が揃わないことは不本意だと私も十分過ぎるほど分かっていることである。まだ幼い彼等には確かに酷だとも思う。しかし、夫と私が別居に至った経緯を知っている長男は、静かに私達両親の姿を受け入れてくれている。もうかれこれ3年、今では当時を懐かしむ余裕さえできてきた。
旅行先から夫のline連絡で、紅葉の中、はしゃぐ子どもたちの写真が送られてきた。ロープウェイからの景色や、ガラスの森美術館の館内の様子など、行楽地らしいにぎやかさが伝わるような明るい画像だった。
彼等が旅立つ前、次男の方は少しぐずついた。旅行に私が行かないと分かったとたんに気持ちがしぼんでしまったようなのだ。長男はもの言いたげに黙っていたが、たぶん同じように寂しさを抱えていただろう。2人の支度を整えながら、私は彼等の旅の無事を祈っていた。今更、叶いもしないことであるが、親子そろって行楽地のホテルで誕生日ケーキのロウソクを吹き消すことができていたなら、さぞかし楽しかっただろうと、思い巡らしながら。
旅を終え、そうして夕方、彼等は私の元へ還って来た。
ホコホコと膨らんだ喜びの空気を連れて、元気に私の家へ戻って来た。
祝祭が済んだのだと実感した。
陽の光の匂いがする。
これからの彼等の日常を、また私はつつがなく作っていかねばならないのだ。
特別な日が、より、上等な思い出として子どもらの心に残るように、いっそうの健やかさで日々のあれこれをこしらえよう。
(2020.11.24)