あおげばとうとし。
卒業文集の原稿へ目を通す機会がありました。私は出版・印刷会社に勤めているので、上がって来たばかりの文集原稿に触れる事が日常にあります。拙い筆跡で書かれた原稿用紙の束を抱え、誤字脱字、改行の訂正、段落の見直し、いわゆる校正作業の手伝いもします。手書き原稿が活字になり、納期に合わせて製本され、彼等の卒業式典の日に記念品として各児童へ手渡されるのです。
校正は「文章を読んではならない」とされています。意識が文章の中に入り込むと、誤りを見つけにくくなり、読み飛ばしや読み間違いが生じてしまうからです。「かわい子」という誤りも、正しく「かわいい子」と出来ない、自分が記憶している「恐らくそれであろう」という文字に無意識に変換されて読み下されてしまうのです。句読点、禁則文字、ルビ異常も発見しづらくなってしまいます。
しかし、ついつい幼い子等の精一杯に書き連ねられた文章の世界には引き込まれてしまうものです。子供らしい心にも周囲の大人達への配慮がきちんと育っています。友達との距離の取り方に細やかな心配りが見てとれます。「いまどきの子」には「いまどきの子なりの」正義が芽生えています。鉛筆で書かれた一画、一画に。