はじめまして「お母さん」です。
子供達は、時々、甘えた声で「ママぁ」と私を呼ぶ事がある。私はすっとぼけて絶対に振り向かない。また繰り返し「ねえ」とか「あのさあ」とかをくっつけ「ママ」呼ばわりするので、今度はさっさと別の場所へ移動して彼等から私は姿をくらます。
追いかけて来る人達に向かい、私は宣言する。「この家に、『ママ』はいません」と。
私は「ママ」ではない。子供達が生まれた時から「ママ」と自称しなかった。たどたどしい口調で呼び掛けるには、字数の少ない、あるいは、唇の運動が比較的容易な「ママ」の発音は気持ち良いだろうと思う。何より「あ段」である「ま」の音はとてもふくよかで優しく耳にも心地よい。しかしながら、私は「ママ」ではなかったのである。保育士さんから「〇〇君のママ」と呼び掛けられても、曖昧に笑って、実はうなずかない事も多い。ここは徹底する。
何故なら私は「お母さん」だからだ。ずっと図太いお母さんでありたかったからなのだ。