あかるい呼び声
優しくもある君の名を
花の姿をなぞるように
呼んだ日もある。
眠りに落ちる僅かの合間に
その呼吸音を確かめる為
膨らんだ唇に手をかざしもした。
余りに頼りない君の背は
知らぬ間に強く粘りのある物になり、
それを追いかける私を置いて
次々に驚きの谷間を飛び越えて行く。
いとも容易く、
軽々と、
翼の生えた踵は宙を蹴り
大地は怒りの土煙を上げている。
逞しく立つ君の名を
声を枯らして母は呼ぶ。
天を割いて落ちる滝へ
祈りの斬撃を放つように。
君を留め置く重圧など
この世界には
とうに無いのだね。
自由の中に一人の君があるのか。
君の中に幾万もの自由があるのか。
解き放つ推進力は
物質的な躍動をすでに凌駕し、
ひたすらに、
高みへ、高みへ。
走る。
駆け抜ける。
踊り上がる。
影さえ残さぬ、
燕の飛翔は
遠い呼び声を
振り返りもしない。