あかりの森's blog

7歳、3歳の怪獣達と楽天家シングルかーちゃんの雑記帳。主にのほほん、時々、真面目。

私の手の中のリンゴは、何色をしていますか。

 思いもよらぬ事で傷付くのは、暮らしの中にあれば誰でも茶飯事の事。取り立てて騒がなくても良いでしょうし、ましてそれを契機に自分を卑下しなくても良いと思います。特に仕事場では、オブラートに包まれていようが単刀直入に斬り込んでくる類であろうが、割と遠慮の無い発言が飛び交うものでしょう。

 「貴女は(人に対して)余計な事を言いかねないから」と、女性の上司に言われてしまいました。鳩尾の辺りがギュっとしましたが、彼女の表情からは悪意が感じられませんでした。ああ、そういう人なんだなあ、とやや悲しくなりましたが曖昧な笑顔でやり過ごしてそれからは一日平穏に過ごしておりました。意志のはっきりしたとても聡明な方でしたので、底意地の悪い方法で相手を傷め付けてやろうという姑息な考えから出た発言ではないでしょう。惜しむらくは、高い立場であるが故の細やかな思いやりに欠ける部分が彼女にあったという事です。私は、先程「平穏に過ごして」と書きましたが、やはりちょっとだけ、心がジクジクとはしておりました。彼女と隣のデスクで仕事をしながら、俯き加減になってしまう視線を上げるのに、僅かばかりの気力が必要でした。悪気がなければ全てチャラになるわけではありませんが、それにいちいちかかずらわっていても前に進まないのは解っている事です。物分かりが良いつもりでいるのでなくて、私にはたまたま、もっと先に考えなければいけない事があるだけです。家の中にあっても、社会の一員として役割を与えられていたとしても、被らないとならない苦いものはあると思います。戦う事を放棄したわけでも、諦めたわけでもなくて、そういう言葉の事故は自分だとて知らず知らずの内に引き起こしている場合があるかも知れないと反省するのです。

 私は実のところ、彼女が口にしたように言葉が過ぎる所が短所であると自覚しています。言わずにおれない馬鹿真面目な性格であろうと思います。心の戸棚はとても浅く作られており、すぐに色々な事で手狭になります。そこから溢れ出た片付けきれない雑多な物がゴロゴロと私の中から零れ落ちて来るのでしょう。確かに、私は今まで不用意に随分人を傷付け困らせて来たと思います。両親、友人、先輩、後輩、私の心無い一言で気分を害した人は多いはずです。我から言うのもおかしいですが、いわゆる「いちびり」なんだと思います。方言で「ええかっこしい、目立ちたがり、オーバーリアクション、派手好き」などの意味を含む言葉です。ですので、他人からその「事実」を言い立てられた所で、もうそれこそ今更なのですよね。いわば私へちょっとした批判を向けた女性上司は歯に布着せぬ人であっただけで、こちらで勝手に傷付くのは全く持って彼女の責任ではない、という事でもあろうと思うのです。

 それでもそこは人間。例え暴かれた物が事実だろうとジクジクするのもはジクジクとしますし、カラリと笑えない事はたぶん罪ではないと思います。人は人、自分は自分、最終的にはそれこそ正論なのですが、解っていても鬱陶しい気分に陥るのは仕方の無い事です。ちょっとくらい怒っても良かったのでしょうかね。あからさまに暗い顔をして、心外であった事を表現すれば良かったのでしょうかね。本当はどちらでも、どのようにしても良かったのでしょう。彼女が吐いた言葉は吐いた言葉。思いの外ショックを受けた私は確かにいました。でも、それだけの事です。笑顔でいようが、悲しんでみせようが、私は私であれば良いのでしょう。自分を押し殺して無視するのではなくて「ああ、私は今、傷付いているんだ」と言う事を、自分自身が認めてやれたらもうそれで良いのだと思ったのですよね。

 彼女は彼女の信じたモノがあるはずですし、私にも私の価値観というか信念がありますし、それらは必ずしもリンクしなくて良いですよね。だとしたなら、彼女が私をどのように評価しようが、私が彼女からどういう言葉を浴びせられようが別に私が彼女の心理まで詮索して必要以上に追い詰められなくてもいいわけです。彼女が見つけたリンゴは「赤」、私が見つけたリンゴは「緑」、良いも悪いもそこにはありません。自分が見つけたリンゴの色と、相手が見つけたリンゴの色が違うと言う事で、互いを攻撃し合うのは全くのお門違いですよ、という事です。

 自分が自由であるのと同じ、相手も相手の世界で自由に生きています。想いのままに領域に踏み込むのは誰にとっても越権です。

 仕事をする上ではタブーと紙一重なのかも知れませんが、もうこうなれば自分の事は自分で決めて良いような気もしてきます。思いやりを欠いてはならないのですが、相手好みにあえて自分を繕わなくても大丈夫なのではないかと思うのです。彼女と私は、違う。それは、揺るがし難い事実ですからね。

 「貴女は余計な事を言いかねないから」と思ったのは彼女なのです。私が私に対して「余計な事を言いかねない」人だと決めつけた訳ではありません。やや理屈っぽいのですけれど、彼女が思う私と、私が思う私とが別人だと言う事だけがはっきりしていれば、私は無暗に傷付く事はないようにも思えます。

 人は不思議な物で、相手の言葉で傷付くのではなくて、最終的に「自分で自分を殺してしまう」生き物なんですよ、きっと。

 私が見つけたリンゴは「緑」なんです。例え、私が持つリンゴを彼女が「赤」だと決めつけたとしても。だって、そのリンゴを実際に持っているのは彼女ではなく、私なんですものね。